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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)651号 判決 1967年11月06日

原告 山崎ウタ子

右訴訟代理人弁護士 山口敏男

被告 アカデミー製靴工業所こと 岩本哲大

右訴訟代理人弁護士 坂井宗十郎

主文

一、当裁判所が、昭和四一年手(ワ)第三〇二八号為替手形金請求事件につき、同四二年一月三〇日言渡した手形判決を、次のとおり変更する。

被告は、原告に対し、金六〇万円、及び、これに対する昭和四二年七月四日から完済まで年六分の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、この判決は、金二〇万円の担保を供するときは、仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金六〇万円及びこれに対する昭和四一年八月二一日から完済まで年六分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに、仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は、訴外南本一朗から、同訴外人振出、被告引受にかかる、金額を金六〇万円、満期を昭和四一年八月二〇日、振出地及び支払地を大阪市、支払場所を三和銀行萩の茶屋支店、振出日を同年五月一七日、支払人を同訴外人、受取人を白地とした為替手形一通の裏書を受けたので、満期日にこれを支払のため支払場所に呈示したところ支払を拒絶されたから、ここに引受人たる被告に対し、右手形金及びこれに対する満期の翌日から完済まで手形法所定年六分の利息金の支払を求める。

二、ところで、訴外南本は、本件手形を振り出すにあたり、支払人として被告の氏名を記載すべき筈のところ、誤って自己の氏名を記載し、受取人として自己の氏名を記載すべきであるのにかかわず、これを白地のまま放置したものであって、右は明白な誤記であるというべく、従って、支払人として被告の氏名が記載されているのと同一視すべきである。又、受取人の白地部分は、原告において、同四二年七月三日(当審第八回口頭弁論期日)これを右訴外人と補充記載し、同日補充後の手形を被告に呈示した。

三、以上理由がないとしても、被告は本件手形上に、振出人のためいわゆる略式保証(手形法第三一条三項、四項)をしたものであって、本件手形満期後たる同四二年八月二四日、右保証債務の存在することを異議なく承認したものであるから、被告に対し、手形保証人としての義務の履行を求める。」

と述べ、証拠≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の事実中、被告が原告主張の手形に引受をしたこと、及び、本件手形の受取人欄の白地が原告主張のとおり補充、呈示されたことは、いずれもこれを認めるが、被告は、本件手形の支払人ではないから、右引受は無効であり、従って、被告には引受人としての責任がない。

二、被告が、本件手形振出人たる訴外南本のため手形保証をしたことも、満期後右保証債務を承認したこともない。仮に承認した事実があるとすれば、それは、原告において手形要件不備の無効な手形であるのにかかわらず、被告をして、有効な手形であると誤信させ、これにより被告がしたものであるから、右承認を本訴において取消す。」

と述べ、証拠≪省略≫

理由

一、原告主張の一の事実中、被告が原告主張の為替手形に引受したことは当事者間に争いがなく、その余の事実は被告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

二、被告は、本件手形の支払人は訴外南本一朗であって被告ではないから、被告のした引受は無効であると主張し、原告は、右支払人の記載は、振出人たる右訴外人が誤記したものであって、被告の氏名が記載されているのと同一視すべきであり、従って、右引受は有効であると主張するので検討するに、およそ、為替手形の引受が有効であるためには、手形に支払人として記載された者が引受けることを要することはいうまでもないけれども、支払人の記載と引受人とが形式上一致しない場合であっても、手形面のその他の記載及び証拠を総合して、支払人として引受人の氏名を記載すべきところを誤って振出人ないし受取人たるべき者の氏名を記載したことが認められるときにおいては、右引受をもって有効になされたものと解すべきであるところ、これを本件についてみるに、支払人として「南本一朗」の記名印が押されていることは甲号各証(成立に争いがない。)によって明らかであり、従って、形式的には被告の引受は支払人以外の者がしたことになるといわねばならないけれども、同号証によれば、右記名印は、振出人の「南本一朗」なる記名印と同一で、原告主張の補充前までは受取人の記載がなされていなかったことが認められ、右事実に被告本人尋問の結果を考え合わせると、訴外南本が本件手形振出の際、受取人として自己の氏名を記載し、支払人として被告の氏名を記載すべきであるのにかかわらず、――統一手形用紙の受取人記載欄が極めて見分けにくくなっていることもあって――誤って支払人欄に自己の氏名を記載し、受取人欄の記載を失念したことが窺知されるところであるから、本件被告の引受が、支払人として記載された者以外の者によってなされたからといって無効といえないことは、前説示するところにより明らかである。

三、してみると、被告は、本件手形引受人として、原告に対し本件手形金を支払う義務があるといわねばならない。

四、ところで、原告は、本件手形金に対する満期の翌日からの手形法所定の利息金を請求しているけれども、原告が本件手形満期日に本件手形を支払場所に呈示した当時、受取人が白地のままであったことは原告の主張自体から明白であり、かかる呈示が無効であることは多言を要しないところであるから、右呈示が適法になされたことを前提とする利息金の請求は失当である。しかし、原告において右受取人の記載を補充した上、本件手形を被告に呈示した同四二年七月三日(本件第八回口頭弁論期日)の翌日から本件手形金完済まで、被告は原告に対し、商法所定年六分の遅延損害金を支払う義務があるといわねばならない。

五、そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被告に対し、本件手形金、及び、これに対する前項説示の日以降の遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求部分は正当として認容すべく、その余の請求部分は失当として棄却すべきであり、これと異なる手形判決は、その一部を取消す趣旨においてこれを変更し、民訴法第八九条、第一九六条第二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下出義明)

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